ウキクサバチdays

ふらっと気ままに詩とか散文をのせるとこ

散文: あがないびと

頭の中で鈍痛が響いていた。こめかみが鼓動にあわせて脈打っている。そんな時には眠れない夜の悪夢を思い出す。くだらない記憶だ。けれど消えない。おそらく自分と深く根付いてしまっているんだろう。

頭痛が記憶を呼んだのか、記憶が頭痛を呼んだのかは分からない。どちらにしろ情けない。笑って話せるくらいの過去なのにな。心と体は別物って話。あまりに頭の中で響くものだから口を開いて逃がそうとしたら、思いの外浅い息をしていた。暑いのか寒いのか分からない。

ぐるぐる回りだした記憶と相変わらずの鈍痛と籠った熱に頭をやられたらしい。助けてほしいと一瞬考えて、そんな自分に乾いた笑いがもれた。冷たい指を瞼の上に押しつけて頭を冷やす。助けを求めたって助けにくる奴なんかいないのをずっと昔から知っているのに。この世には自分と他人しかいないこと、それを自分で望んだくせに。

何よりも、何よりも、そうやって伸ばされていた数多の手を、振り払ったのは自分なのだ。そんな奴が“助けてほしい”?口に出したら、あまりの茶番に誰もが呆れて笑いだすだろう。というか、まず自分が笑う。そうすれば周りは冗談だったと思うのだろう。その方がいい。

籠った熱がまとわりつくのが嫌で布団を剥いでいたら、頭は白熱しているのになんだか寒く感じてきた。仕方がないのでまた布団を引っ張って眠れればいいと目を閉じる。

するとぼやけた暗闇の奥の方で、子供が頭を何度も壁にぶつけていた。気持ちは分かるよ。わけが分からなくなるくらい痛いものな。それならいっそ分かりやすい痛みで上書きしてしまった方が楽なんだ。

けれどもうやらないって決めたのさ。だってなんか病気みたいだろ。笑っちゃうよなただの頭痛なのに。でもみんなはそうは思わないらしいから。だからやめた。ちょっと苦しいけどもう大人なんだし。だから君もやめなよ。大丈夫、しゃっくりみたいなもんさ。忘れればおさまる。

どんどんと暗闇に呑まれていく世界で頭を打ちつけていた子供はふいにこちらを見た。その目は黒く、ただ黒く退廃に満ちていて、けれどナイフのような鋭利さでこちらを睨んでいた。手には小さな数多の幼い手。

そんな睨むなよ。罪深いのは何より、君の弱さなんだぜ?笑ってやれば、子供は目に憎悪をたぎらせて、崩れ落ちて泣いた。
にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村